1.集団分析の目的
労働者が常時50人以上いる事業所では、1年に1回ストレスチェックの実施が義務付けられています。ストレスチェックの目的は労働者のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)です。従業員個人に対しては、ストレスへの気付きを促し、職場に対しては職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることが目的とされています。ストレスチェックの結果は従業員に対し、個別に通知され、高ストレス者のうち希望者には面接指導が行われますが、それだけで終わりではありません。各々の結果をもとに、部署などの組織ごとに分析する「集団分析」も、ストレスチェックにおいては非常に大切な位置づけとなっています。
1-1.集団分析は努力義務である
集団分析の実施は法律で義務づけられておらず、努力義務とされています。つまり集団分析を実施しなくても現在の法律では罰せられることはありません。では、なぜ集団分析を実施することが大切なのでしょうか。
1-2.集団分析を実施することのメリット
集団分析を効果的に活用することで、職場の課題が見つかることがあります。職場の課題を把握することで職場環境改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防ぐことができるのです。つまり集団分析を行うことが、労働者が心身共に健康でいきいきと働くことのできる職場環境に繋がります。
しかしながら、集団分析の実際の進め方や効果的な活用方法についてはよく分からない、という方も多いのではないでしょうか。
本記事ではストレスチェック集団分析の実施方法やその効果的な活用方法について詳しくご説明します。
産業医をお探しの方は産業医システムズへ!【集団分析の評価とストレスチェック実施後の対応もお任せください】
産業医システムズでは、ストレスチェックの集団分析の評価やその後の職場環境改善など、メンタルヘルス対応に精通した産業医が複数在籍しています。高ストレス者への面談などスポット対応も可能です。
「ストレスチェックの実施が初めてで、何から準備をしたら良いのか分からない」
「今までなんとなくストレスチェックを実施していたけれど、今度は集団分析の結果をきちんと活用したい」
「ストレスチェック後の面接指導を依頼できる医師がいなくて困っている」
などのお悩みを持つ企業の担当者様は、まずはお気軽にお問い合わせください。
産業医システムズは皆さまと一緒に伴走し、大切な従業員の健康管理・健康増進をサポートいたします。
▶メールでのお問合せはこちら
▶お急ぎの方はお電話でお問合せください 050-8892-0061
2.集団分析の実施状況
厚生労働省の資料によると、集団分析を実施する事業場の割合は年々増加しており、全体で8割以上の事業場が集団分析を実施していることが分かります。さらに職場環境改善に取り組んでいる事業場も40%台後半で推移していることから、多くの事業場がストレスチェックを活用して職場環境改善に取り組んでいることが分かります。
早速、ストレスチェックの集団分析の実施方法について確認していきましょう。
3.集団分析の実施方法
3-1.【集団分析実施前の準備】
3-1.1.衛生委員会で集団分析の実施方法について検討する
集団分析を行う上で大切なことのひとつに「個人が特定されないこと」があります。ストレスチェックで大切なことは、従業員に安心してストレスチェックを受けてもらうことであり、ストレスチェックの結果は個人情報であり、適切に扱われなければなりません。そのため集団分析は個人の結果が特定されない形で実施することが大切です。
そのため集団分析の実施方法については衛生委員会等で調査・審議をした上で実施するようにしてください。
衛生委員会では主に以下の2点について調査・審議を行います。
・最小単位の人数
・集団分析の開示範囲と開示目的
➢【集団分析の最小単位数を決定する】10人未満でも集団分析を実施できるか
従業員数が少ない事業場の場合は、ひとつの部署が10人を下回ることはよくあることでしょう。個人が特定されるリスクを防ぐため、分析対象の組織が10人を下回る場合、実施者は集計・分析の対象となる全労働者の同意を取得しない限り、事業者に集計・分析の結果を提供してはならないとされていますが、厚生労働省が示しているストレスチェックの調査票の57項目全ての合計点について集団の平均値だけを求めたり、「仕事のストレス判定図」を用いて分析したりする等、個人の特定につながり得ない方法で実施する場合は、あらかじめ衛生委員会等で調査審議を行った上で、10人未満の単位での集計・分析を行うことも可能です。(出典:厚生労働省資料)
中小規模の事業場では、職場環境改善の効果が反映されやすいとも言えます。そのため10人を下回る組織が多い事業場でも、積極的に集団分析を実施して、働きやすい職場環境づくりを目指しましょう。
➢【集団分析の開示範囲と開示目的を明確にする】
集団分析の結果は個人が特定されない形で実施しますが、それであっても情報の開示範囲については、事前に衛生委員会の場で調査審議する必要があります。例えば「衛生委員会の場で共有する」「当該部署の管理職や経営陣等の上位職にフィードバックする」などです。予め、どのような目的で・どの対象者に開示するのかを検討しておくようにしてください。
3-2.【集団分析の評価方法】
3-2.1.仕事のストレス判定図と健康リスクを読み解く
➢仕事のストレス判定図
集団分析では、主に以下の通り「仕事のストレス判定図」というものを用いて評価を行います。仕事のストレス判定図には2種類があり、それぞれ「仕事の量と仕事のコントロール度」、「上司からの支援と同僚からの支援」の4つの尺度で表されたものです。該当組織のメンバーの結果からそれぞれ平均が算出され、その値を表にプロットしたものが「仕事のストレス判定図」となります。この仕事のストレス判定図は、性別ごとにも算出する事が可能です。プロットされた図形の位置が色の濃い範囲にいればいるほど、ストレスが高い状態と読み替えることができます。
➢健康リスク
また斜めの線の上の青い数字は、「健康リスク」と呼ばれるもので、標準が100とされています。一般的には健康リスクの数値が120以上になるとストレスが高い状態とされています。健康リスクは「仕事の量と仕事のコントロール度」、「上司からの支援と同僚からの支援」それぞれで算出され、2つの平均をとったものを「総合健康リスク」と呼び、一般的にはこの総合健康リスクが120以上となった部署が高ストレスであるとみなされます。
・斜め線の青字は健康リスクと呼ばれ、120以上でストレスが高い・それぞれの健康リスクの平均から、総合健康リスクが算出される・総合健康リスクが120以上の部署に着目する |
3-2.2.集団分析以外の情報(労働時間、エンゲージメント調査、離職率等)も参考にする
組織の評価の方法としてストレスチェックの集団分析はとても有効ですが、この結果だけに囚われず、様々なデータと組み合わせて評価することも大切です。例えば活用できるデータについては、以下のようなものがあります。
【組織評価のための参考情報の例】 ・労働時間(時間外労働時間)の状況・離職率などの人事情報・産業医や保健師等の医療職からの意見・人事面談の結果・現場の社員や上司からの声・ストレスチェック以外の社内調査(エンゲージメント調査など)の結果 など |
一概に健康リスクが高い部署というだけではなく、このようなデータと集団分析の結果を組み合わせて、職場環境改善を行う部署を検討できるとよいでしょう。
集団分析結果の評価については、これまでご説明した通りです。次に集団分析をどのように職場環境改善につなげていくか、具体的な方法についてご説明します。
3-3.【集団分析結果の活用方法】
集団分析で大切なことは職場環境改善に活かすことです。職場環境改善には「こうあればよい」という正解がありません。それぞれの会社に応じて、職場環境改善のPDCAサイクルを回すきっかけにすると良いでしょう。集団分析の実施と活用を事業所のなかで「心の健康づくり計画の一つ」と位置づけて対応すると効果的です。
3-3-1.衛生委員会で集団分析の結果について共有する
まずはひと月に1回開催される衛生委員会の場で、集団分析の結果を共有しましょう。説明は産業医や保健師等の専門家からの説明があると良いですが、難しい衛生委員会は月に1回開催されますので、新しい会議体の設定も必要ありませんし、衛生委員会のメンバーの半数は従業員代表であるため、従業員が主体となって議論に参加することもできます。一方で衛生管理者など社員の健康管理・健康増進に関与する担当者も参加しているため、双方で闊達な意見交換ができるといったメリットがあります。
集団分析の結果どのような特徴がみられたのか、その組織への対応策について皆で議論することが大切です。産業医等の専門家からもコメントがもらえるとなお良いでしょう。
3-3-2.経営層を含む組織の管理者にフィードバックする
事前に衛生委員会で調査審議をしておくことで、経営層や管理者へフィードバックすることも効果的です。ここで気を付けなければならない事は、ストレスが高いと算出された職場の組織長が、集中的に責められることがあってはならないという事です。現場の管理者で対応できる範囲が限られていることで経営層レベルも巻き込んで対応が必要なケースがあったり、そもそも高ストレスになりやすい要因が揃っているなど、管理者だけに責任があるということではありません。職場環境改善では組織が一丸となって対応することが大切です。
3-3-3.好事例についても共有する
職場環境改善というと課題ばかりがクローズアップされてしまいがちですが、実際に職場環境改善を行ってみて良かったことや変化がみられたこと、さらにはその職場の強みなどポジティブな内容を情報交換することも大切です。例えば総合健康リスクが低かった組織での取り組み事例等を共有することも効果的といえます。
4.むすび~集団分析を有効活用し、職場環境改善に活かす~
これまで、集団分析結果の評価方法や、有効活用が職場環境改善につながることについてご説明してきました。では集団分析の結果をもとに、実際にどのように職場環境改善活動を行っていくのか、職場環境改善の具体的な方法は本記事の続編でご紹介します。
集団分析後の職場環境改善にご関心のある方は、ぜひ続編の記事もご確認ください。