絹川 千尋
詳しいプロフィールはこちら日本産業衛生学会産業衛生専門医/日本医師会認定産業医/社会医学系指導
日本産業衛生学会指導医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医、メンタルヘルス法務主任者専属として勤務。その後中小企業を対象とした産業医として独立し、株式会社産業医システムズを設立。現在は統括産業医として、産業医に指導をしながら、チーム制による産業保健活動を行う。
厚生労働省の調査結果によると、『メンタル不調による休職者や退職者は増加傾向である』との報告があり、企業の人事労務担当者にとって、従業員からのメンタルヘルスに関する相談は避けて通れません。
・メンタルヘルスの問題を抱える従業員から相談を受けたが、次のアクションが分からない…
・メンタル不調の部下をかかえるライン長から相談があったが、どうしたら良いのか分からない…
特に上記のような悩みがよくきかれます。メンタルヘルスのなかには適切に対応しなければ、裁判などのトラブルに発展してしまうようなケースもあります。そのようなケースに企業の担当者だけで対応すると、担当者への負担も大きく、適切に対応することが困難なだけでなく、担当者への負担も大きくなってしまいます。そこで、従業員のメンタルヘルスの相談には専門家である「産業医」が大きな役割を果たすことになります。
この記事では、従業員からのメンタルヘルス相談に対する産業医の役割やその重要性について解説します。
1.産業医が対応する主なメンタルヘルス相談
大きく分けると次の3つがあります。
1-1.現在働いている従業員のメンタル不調への対応
従業員本人から申し出があるケースもあれば、対象者の上司から依頼がくることもあります。必要に応じて医療機関への受診を勧奨したり、安全に勤務継続ができるかどうかの確認を行います。上司から依頼がくるケースのなかには従業員自身がメンタル不調自覚がないケースもあり、対応が困難となるケースもあるります。メンタルヘルスというと上司も部下も会社に相談をすることに抵抗があります。このような場合に第三者である医療職の産業医がいると相談がしやすいという安心感があります。
1-2.休職者の復職判定
メンタル不調で休職(※)となった従業員に対し、人事労務部門や職場の上司と密に連携しながら、業務を遂行できる体調に回復しているかどうかの判断を行います。復職時だけではなく、復職後も定期的に面談を行い、従業員が安全に復職できるよう支援を行っていきます。休復職の判定では主治医の復職条件と、会社の求める復職条件が乖離していることもあり、産業医が間に入る事で、適切な復職支援を行うことが可能となります。
(※)休職制度がない会社もありますが、ここでは私傷病により長期にわたって会社を休業することを休職とします。
1-3.ストレスチェック後の面接指導
従業員が50名以上の事業場で実施することが法律で定められていますが、ストレスチェックで高ストレスであると判定された従業員のうち、従業員の申し出があった場合は産業医の面接指導を実施します。なかにはメンタル不調者の早期発見・早期対応をするに繋がるケースもあり、高ストレス者にはなるべく面談を受けてもらう事は重要です。更に、職場環境の改善について助言をする役割も担います。スポットの医師ではなく、職場の状況を把握している産業医が対応することで、職場環境の改善についての助言が可能となりますので、産業医が面談をすることが望ましいと言われています。
2.会社のパートナーとしての産業医
メンタルヘルス相談においては、産業医が会社のパートナーとなって対応を行います。主治医は100%患者さんの味方の立場ですが、産業医は会社と従業員の間で、中立な立場で対応する点が主治医と産業医の大きな違いです。産業医は医学的な知見をもとに助言を行うことはもちろん、労働安全衛生法や労働基準法など労働にかかわる法律や、近年の裁判の判例など、世の中の動向も踏まえた上で助言をしてくれます。会社には、従業員が安全に、安心して働けるように配慮しなければならないという”安全配慮義務”があります。会社が安全配慮義務を果たし、会社と従業員を守るためにも、メンタルヘルス相談には産業医、または産業医と一丸となって対応できると安心です。
3.産業医が対応することの重要性
産業医は大きく分けて、以下の2つの視点から会社に助言を行います。
視点①医学的観点から、病気の特性を踏まえた助言
視点②会社のリスクマネジメントの観点から、安全配慮義務を果たすための助言
②については企業の顧問弁護士や社会保険労務士でも対応できますが、①②2つの視点から助言ができるのは、産業医ならではと言えるでしょう。特に「メンタルヘルス不調」という医学的に支援が必要な状態では、産業医を巻き込んで対応することが望ましいです。
4.メンタルヘルス相談における産業医の役割
メンタル相談において、産業医は会社と従業員の間で潤滑油のような役割を果たします。例えば職場の人間関係が上手くいかず、メンタルヘルス不調を発症してしまった社員がいるとしましょう。なかには上司との人間関係が上手くいかないことが要因となっているケースもあるでしょう。さらには上司や人事には、自身が悩んでいることを言いづらい、という従業員が多くいるのも事実です。
そこで産業医が間に入り、従業員の悩みや不安を受け止め、従業員の回復にとって必要なことを、従業員に代わって会社に伝える役割を果たすことがあります。一方で、人事労務部門やライン長など会社からの要望も確認し、その内容を踏まえた上で従業員と産業医面談を実施することもあります。産業医ならではの中立的な立場を活かした対応で、従業員と会社の間を取り持つことができるのです。
5.産業保健師の存在
産業医のほか、医療専門職である「保健師」がメンタルヘルス相談に乗ることもできます。企業で働く保健師は一般的に「産業保健師」と言われています。産業保健師は、対象社を産業医に繋ぐべきか、一旦は様子見でよいのか等の判断をしたり、産業医や会社の人事労務部門と連携しながら、従業員の健康管理を支援する役割を果たします。産業医面談に対し敷居を高く感じる従業員も一定数存在するため、初回の面談を保健師が担当する方法もあります。メンタル不調に至る前に面談によって状況を確認し、適切に対処することで、早期発見や発症予防にも繋げることができます。
6.産業医と産業保健師の役割
産業保健師は、従業員の相談に乗ったり、産業医や会社の人事労務部門と連携・助言したりすることはできますが、指示を出すことはできません。例えば明らかに受診が必要な従業員に対して、受診を勧める「勧奨」をすることはできますがはできるが、受診を「指示」することはできません。一方で産業医の意見には、強制力を持たせることができます。従業員の健康にとって必要な職場での配慮事項を検討し、職場に対してその意見を発出することができるのは、産業医の役割です。
7.産業保健師の活用
一般的に、産業保健師の方が産業医よりもかかる費用が少額であるため、従業員の状況に応じて使い分けられると高い費用対効果が期待できます。しかし、産業保健師の配置は法律で義務付けられていないため、配置している企業の割合は少なく、産業保健師を導入している多くの企業は大企業です。しかし、産業医の紹介会社には、産業保健師のサービスを提供していることもあります。もし産業保健師を紹介会社を通して産業医を選任した場合は、産業保健師のサービスが利用できるか、紹介会社に相談してみるのもよいでしょう。
8.産業医の有効活用
一方で産業医は従業員が50名以上の会社で選任義務があるため、多くの企業は最初から産業医に相談することになります。しかし多くの企業では産業医は嘱託産業医(=非常勤の産業医)であり、月に〇回、一回の訪問につき〇時間の訪問といった形をとることが多く、相談できる時間が限られているのが現状です。そのため、限られた時間を有効に活用ができるかどうかがポイントになります。産業医が会社の状況を理解した上で、会社や従業員からの相談に対し、限られた時間のなかで的確なアドバイスをしてくれるか、ということが大切です。
9.産業医をお探しの方は産業医システムズへ!
当社には、メンタルヘルス相談への対応が豊富な産業医が複数在籍しています。さらに産業医を指導できる資格をもつ産業医が統括産業医として、担当産業医をサポートすることで産業医サービスの質を保障します。産業医の訪問時間以外の産業医への相談はできない事が一般的ですが、当社では担当産業医の訪問日以外は、統括産業医が相談に対応いたします。
更に当社には産業保健師がいるため、産業保健師によるサービスをご提供することができます。統括産業医・担当産業医・産業保健師がチーム一丸となり企業の皆様をサポートできるのは、当社ならではのサービスです。従業員のメンタルヘルス相談への対応でお困りの担当者の方は、この機会にぜひ産業医の選任を検討してみてはいかがでしょうか。